大判例

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大分地方裁判所 昭和23年(行)15号 判決

原告 原田源三郎

被告 大分県農地委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

別紙目録記載の宅地、建物に対する買收計画につき原告のした訴願事件(大分縣農地委員会昭和二十三年第二七六号)につき、被告が昭和二十三年七月二十九日にした裁決は取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

三、事  実

原告訴訟代理人は、その請求原因として、別紙目録記載の宅地、建物(以下本件宅地建物と略称)は原告が父祖から承継した唯一の不動産であつて、原告は数十年來他郷に在つて商業に從事し現在肩書住所地である八屋町長の職に在る。元來右家屋には昭和五年八月頃迄原告の母と長女が居住していたのであるが、その月に母が死亡し、次いで昭和六年六月に長女が死亡するに至り全く無人の状態になつた爲、予て本件宅地建物の管理を引受けていた原告の親族中入辰三郎及び田中滝三郎が、その頃右建物の留守番をして貰う意味で訴外島本喜一郎に本件宅地建物を無償で貸與し、それ以來右喜一郎がこれを使用している。しかるに訴外喜一郎は本來石工で從來はそれによつて生計をたてていたのであるが、終戰後自家の飯米の足しにする爲僅に農地を小作するようになつたところ、自作農創設の国策に便乘し、その恩惠に浴しようとして自作農創設特別措置法第十五條により本件宅地建物を政府において買收すべき旨を申請し耶馬溪村農地委員会は訴外喜一郎が右宅地建物につき賃借権を有するものとし、これについて同法による買收計画を定め、被告もこれを承認した。しかし政府が農地の買收に附帶して土地建物を買收するには、自作農となるべき者が土地については賃借権、使用貸借による権利若しくは地上権を有する場合、又建物については賃借権を有する場合でなければならぬのであつて、このことは同法第十五條の規定に照して明白である。しかるに訴外島本喜一郎は右に述べたように本件建物については、使用貸借による権利を有するに過ぎないのであるから、これを買收することはできない筋合であるし、又右建物が買收できないのにその敷地である本件宅地のみを買收する理由はないのみならず、訴外喜一郎は自己の都合により昭和二十四年一月十三日耶馬溪村農地委員会に対し、本件宅地建物の買收申請を取消したので同委員会が右宅地建物について定めた買收計画はいずれにしても違法たるを免れない。そこで、原告は昭和二十三年六月十一日右買收計画に対する不服を理由に被告に対して訴願の申立をしたところ被告は同年七月二十九日原処分廳である耶馬溪村農地委員会と同一見解の下に原告の訴願は理由なく右買收計画は取消すべきでない、という裁決をした。しかしこの買收計画は右に述べたように違法の処分であるから、これを維持した被告の裁決も違法たるに帰する。そこで原告は右裁決の取消を求めるため本訴に及んだ次第である旨陳述し、本件宅地建物の買收申請取消の効力に関する被告の抗弁事実は否認する。と述べた。

被告訴訟代理人は主文と同じ判決を求め、答弁として原告主張事実中本件宅地建物は原告がその父祖から承継した唯一の不動産で、原告が現に八屋町長の職に在ること、昭和六年六月、原告主張の事情によつて右宅地建物が無人の状態になつたので、その管理を引受けていた訴外中入辰三郎及び田中滝三郎が留守番の意味で訴外島本喜一郎に右宅地建物を貸したこと、訴外喜一郎が耶馬溪村農地委員会に対し右宅地建物の買收申請をし、同委員会は右喜一郎が本件宅地建物につき賃借権を有するものと認め、これについて自作農創設特別措置法による買收計画を定め被告はこれを承認したこと、原告がその主張日時右買收計画につき被告に訴願の申立をし、被告が原告主張日時にその主張する理由の下に主張の裁決をしたことを認めるけれども、その余の事実は否認する。訴外島本喜一郎は本件宅地建物を当初賃料一ケ月金三円期間の定のない約定で原告から賃借しその後昭和八年に賃料を一ケ月金八円に、昭和十年に一ケ月金十円、昭和二十三年三月に一ケ月金三十円にそれぞれ値上げし、滯りなく支拂つて來たのであつて、原告主張の如く單なる使用貸借ではないのである。右喜一郎は始め石工をしていたが、買收計画当時は家族十二名、その内労働人員男三名女二名を以て田五反三畝歩、畑一反八畝を小作していた專業農家であり、更に今次の農地改革によつて田二反六畝歩、畑五畝歩の賣渡を受け自作農として精進しているのである。そして本件宅地建物はその現況からみて右喜一郎が自作農となるについて必要な土地、家屋であるから、耶馬溪村農地委員会が右喜一郎の買收申請を相当と認め、右宅地建物に対する買收計画を定めたのは適法の処置である。訴外喜一郎が仮に本件宅地建物に対する買收申請を取消したとしても、それは賃貸人たる原告の圧迫によつてしたことであつて、眞意に出ずるものではないから右取消の申立は無効である。仮にそうでないとしても昭和二十三年十二月十五日に右宅地建物の買收令書を原告に交付し、次いで昭和二十四年一月二十二日訴外島本喜一郎に対して賣渡令書を交付したから賣渡時期たる昭和二十三年十二月二日に右不動産の所有権は国から同訴外人に対して移轉したわけである。從つてその後昭和二十四年一月二十四日に同訴外人が本件宅地建物の買收申請を取消しても、適法に取消の効力を生じ得ないといわねばならぬ。そうとすると被告が原処分廳である耶馬溪村農地委員会と同様の見解の下に同委員会の定めた右宅地建物の買收計画を維持し原告の訴願を棄却する裁決をしたのは正当の処置であつてその取消を求める原告の本訴請求は理由がない。と述べた。(立証省略)

四、理  由

本件宅地、建物は原告がその父祖から承継取得した唯一の不動産であること、昭和六年六月原告主張の事情に因り右建物が無住の状態になつたので右宅地建物の管理を引受けていた訴外中入辰三郎及び田中滝三郎が留守番の意味で訴外島本喜一郎にこの宅地建物を貸したこと、右喜一郎が耶馬溪村農地委員会に対し右宅地建物の買收申請をしたところ、同委員会は右喜一郎がこの不動産について賃借権を有するものと認め、これについて自作農創設特別措置法による買收計画を定め、被告はこれを承認したこと、原告がその主張日時右買收計画につき被告に訴願の申立をしたところ、被告は原告主張日時に主張の理由に基いて本件の裁決をしたことはいずれも当事者間に爭のないところである。

しかるに原告は、訴外島本喜一郎は右建物につき使用貸借に因る権利を有するに過ぎないから政府がこれを買收することはできない筋合であるし、又右建物を買收し得ない場合にその敷地である本件宅地のみを買收する理由はない。從つて耶馬溪村農地委員会が訴外喜一郎は右宅地建物について賃借権を有するものとしてこれにつき買收計画を定めたことは違法であるのに被告も亦右計画に対する原告の訴願につき原処分廳と同様の見解の下に本件の裁決をしたことは違法たるを免れないと主張するけれども、成立に爭のない乙第一号証、同第三及び第四号証、同第六及び第七号証の各記載に証人中入辰三郎、同島本喜一郎(第一回)の各証言を綜合すると本件宅地建物を目的とする訴外島本喜一郎と原告との契約は使用貸借ではなく賃貸借であることを認めることができる。この認定を覆して原告主張事実を認めることのできる確証は存在しないから、原告の右主張は理由がない。次に原告は訴外喜一郎は昭和二十四年一月十三日耶馬溪村農地委員会に対して本件宅地建物に対する買收申請を取消したから、同委員会のした右買收計画は違法に帰する、從つてこれを維持した本件裁決も亦違法たるを免れない、と主張するのでその当否を檢討する。思うに自作農創設特別措置法第十五條により政府が農地買收に附帶して宅地建物等の買收処分をするには、当該農地につき自作農となるべき者その他同條に規定する申請権者から買收申請がなされたことを前提要件とするのであつて、この要件を欠くときは、該物件についてその後になされる市町村農地委員会の買收計画樹立、知事の爲す買收処分はいずれも違法に帰することは勿論である。而して右申請行爲はその効力よりみて、いわば公法上の準法律行爲たる性質を有するものと解して妨げないから、これに一定の瑕疵が存するときは、行爲者においてこれを理由として右申請自体の取消を爲すことも亦許されねばならないが(もとより公法上の行爲についてはこと公益に関することが多いので、その取消を無制限に許すことはできない)いわゆる撤回の意味の取消は少くとも市町村農地委員会が右物件に対する買收申請を相当と認めこれについて政府による買收処分が爲された後は許されないと解するのが相当である。蓋し、かかる物件の買收は單に買收申請者個人の利益のためにのみなされるものではなく自作農創設特別措置法第一條に掲げる目的を達成するというより大なる目的に副はんとするものであるばかりでなく同法によれば、右物件につき買收処分が爲されたときは政府は買收時期にこれに対する所有権を取得し、その他同法第十五條第十二條に定める効果を生ずるに至るから、若しその後において買收申請の取消を許容すればかかる効果をすべて失はしめ政府その他の権利を害するに至るからである。しかるに原告はその主張によつても、明かな如く訴外島本喜一郎が本件の買收申請を取消したのは單に自己の都合によるものであつて行爲自体に存する瑕疵を理由とするものではなく、しかも成立に爭のない甲第一、二号証の記載と証人大平三七雄の証言によると、訴外喜一郎は昭和二十四年一月十三日耶馬溪村農地委員会に対し本件宅地建物の買收申請を取消しているが右宅地建物に対する買收令書は既にその以前である昭和二十三年十二月五日原告に交付せられ買收処分は完了していたことを認めるに十分であるから前記理由に因り右取消はその効力を生ずるに由ないものである。從つて原告の右主張も亦理由がなくこれを採用し難い。そうとすると本件裁決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当たることが明白であるからこれを棄却することとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 木本楢雄 尾崎力男 鎌田亘)

(目録省略)

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